ソフレ
 わたしの後ろで何回もカメラのフラッシュが光った。振りかえってみれば、そこにいたのは。

「田中……!」

 義兄が呻いてつぶやいたのは、そう。

 さっき用務員室にガラスの補修道具を取りに行った田中君が、スマホと録音器械を構えて立っていたんだ。

「お前、何のつもりだ!」

 叫ぶ義兄に、田中君が邪魔な段ボールとテープをぽい、と放りだして言った。

「幸花は、あんたにはやらないぜ、西尾先生?」

「……透」

 その言葉を聞いて、絶対学校では呼ばないって決めていた、田中君の名前をつぶやけば。

 ベッドの中では仔犬みたいだった彼が、凶暴な狼みたいな顔をして笑う。

「よっくも、オレの大事な幸花を傷つけやがって!
 幸花の不幸の元がお前にあるって聞いて、ずーっと機会を伺ってたんだ」

 今日やっと、セクハラの証拠が取れたぜ! って、透は得意そうに、スマホと録音器械を振った。

「それをどうするつもりだ!」

 青ざめる義兄に、透は首をかしげる。

「それは西尾先生の態度次第かな?
 幸花を自由にして、オレ達を放っておいてくれれば、データは、学校を卒業する時返してやるし。
 これ以上何かするなら……ドコにばらまいて欲しい?」

「くそ……!」

 これは、完全に透の勝ち、だ。
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