夏恵
全然流れる気配を見せない国道にうんざりして窓の外を眺める。
打ち上げ会場も近い為、国道横の歩道は浴衣を着たカップルや、楽しそうな家族連れが会場へ向かい笑いながら歩いていた。
そして僕は明子と初めて二人で出掛けた花火大会の夜を思い出した。
明子は、選ぶのにかなり迷ったと言っていた綺麗な浴衣を着て、僕の事を駅の前で待っていた。
僕は彼女の立ち姿に暫く魅入ってしまった事を思い出した。
二人で人混みにはぐれない様に、しっかり握った手の感覚を思い出した。
花火が全て打ち上がった後も、二人そのまま帰るのが惜しくなり、コンビニで小さな花火セットを買い、近くの公園の高台で二人でやった花火を思い出した。
そして二人で買った花火も終わり、静寂と暗闇の中で交わしたキスを思い出した。
鮮やかに僕の唇に明子の唇の感触が蘇る。
僕はその感触が錯覚である事を確かめる様に自分の唇を撫でる。
大きな音が鳴り、ビリビリと車の窓を震わせて僕はハッとする。