夏恵
僕は須藤の表情を見て自分の言った事が恥ずかしくなり『いや何でも無いです』と言い、苦し紛れにポケットから煙草を探した。
そして煙草に火を点けて、雨漏り箇所と思われる場所から近い窓枠から染み出て来る水滴を眺めた。
『違うと思いますよ・・・』
『・・・え?』
『リビドーですよ・・・時として履き違える事の方が多いと思います。』
『・・・違う』
『まぁ状況によるとは思いますけど・・・人間は自分をコントロール出来るほど・・・そんなに賢くはないと違いますか。』
『・・・賢くない』
『結局は強い衝動に騙されるんですわ。・・じゃないと採算合わんのとちゃいますか?』
『採算?』
『意外とデリケートって事でしょうな。自分にソレが愛だと言い聞かせないと心を誤魔化せんのですわ。』
『・・・詩人ですね。』
僕がそう言うと須藤は『ええ一応文学部でしたから』と言って笑った。
僕は夏恵の事を考えながら須藤の言葉と照らし合わせたが一向に答えは見えなかった。