夏恵

工事業者が数人増えて戻って来た。

工事の人間達は須藤と暫く打ち合わせて外に出て行った。


『・・・たくっ台風くらい予想しておけっての。』


須藤は舌打ち混じりにそう言って煙草を吹かしながら水浸しの店内を見渡した。

僕は須藤の言葉にただ頷きながら、先程の須藤の言った事を頭の中で何度も反芻した。


『・・・吉岡さん』


『はい?』


『あんまり深く考えても仕方ないもんですよ。人間なる様にしかならんのですわ・・・コレが。』


『・・・そんなもんですか?』


『そんなもんですわ。・・・じゃぁ愛って何なのかと言われたら答えられませんけど・・・全てのエッチに愛があった訳ではないでしょ?』


『・・・そう言われたらそれまでですけど』


『結局のとこ男は勝てんのですわ・・・リビドーに・・・だけど負けず嫌いの男はソレを愛と差し替えてしまうんですわ・・・』


そう言って須藤は大きく煙を溜息と共に吐き出した。

そして空を仰ぎながら『多分』と付け加えた。
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