夏恵
その後は相変わらず明子と連絡を取らず、連絡の取れなくなった夏恵の事を考えながら日常を過ごしていた。
確かに須藤の件で、束の間それを頭から切り離す事が出来たが、熱病の様に僕の頭に湧いては僕の心を支配した。
台風が去った後、確かに日差しは強く汗ばむ日も続いたが、それは明らかに夏の暑さとは違っていた。
日が落ちるのも早くなり、夜は窓を開ける日も少なくなった。
土曜日になり須藤が足場から落ちて一週間経ち、夏恵と連絡が取れなくなってから二週間近く経ち、明子と連絡を取らなくなってから三週間以上になる。
そして夏が終わって半月以上が過ぎている。
僕は今頃になって夏を憂いている。
あの日差しを恋しく思い、夏の喧騒を感じたいと嘆く。
酷く矮小で情けない僕は人肌恋しく思う様な感覚に取り囲まれて、明子の優しさに甘えてしまいたい欲求にかられる。
だがそれは許されない。
僕はそんな身勝手を考える自分ですら許せない。
僕は酷く弱く身勝手な人間だけど、せめて愛した人にそんな都合の良い事はしたくなかった。
そして僕は相変わらず黒くドロドロとした心の中の物を処理出来ないまま日常を過ごした。