夏恵
『・・・遅かれ早かれ結果はこうなっていたかも知れません。』
中年にご焼香して僕は芳江さんに深く頭を下げる。芳
江さんは、そんな僕にそう呟いた。
『あなたの会社だけじゃ無いんです。・・・ただあなたの会社が最後だっただけです。』
芳江さんは、僕を労ってくれているのだろうが、決して目を合わせようとはしない。
僕は無言のまま、その場を立ち去り、芳江さんの言葉を思い中年の心情を理解しようと試みた。
しかし、それは到底適わない事とすぐに理解した。
した側の人間がされた側の心情を理解出来るはずが無い。
どんなに足掻いても同情にしかなり得ない。
僕は会社の命令に従っただけだと自分を蚊帳の外に追い出す様な『逃げ』はしたくない。
けれど僕は自分の中のワダカマリを拭い去れる術を持ち合わせてはいない。
勝手に納得させる言い訳も思いつかない。
車を止めた所に戻る間、何人か僕と雰囲気の似た人とすれ違った。
そして共通して、誰一人社長や幹部クラスには見えなかった。
皆、僕と同じくらいか、ちょっと上くらいの係長クラスの人間だろう。
本来、中年と付き合いのあった人間はうちの会社の様に中年の前に姿を見せる事が出来ないのだろう。
僕は益々、中年が不愍で堪らなくなった。