夏恵
『・・・しかし暑いな』
『夏だからね・・・』
僕の取りとめのない言葉に夏恵が取りとめのない返事を返す。
不思議と僕の心はこの『取りとめのない』やりとりで満たされていく。
不意に『愛してる』と言葉が出そうになるが、僕は胸のうちにしまう。
別に素直になれない訳ではない。
胸の奥からこみ上げて来る想いを言葉に出してしまうと、それは消えてしまいそうな錯覚に襲われて言葉に出せない。
夢の中で覚めるのを恐れている。僕は今夏恵以外の事を考えたくない。
『・・・でも夏は短いのよ』
夏恵は急に表情を落とし呟いた。
僕は夏恵の変化に困惑し、ただ見つめるしか出来なくなる。
そして何も言えず不安になる。