夏恵
不意に明子の事を思い出した。
明子の事を思い出したと言うよりも、以前に真剣に考えた明子との将来の事を思い出した。
明子は口には出さないが、今まで積み重ねた関係に結果を欲しがっている。
僕だって明子の求めている結果は知っている。
この前までの僕は、それをただ言い出せなかっただけで、僕自身も望んでいた。
その時の僕には迷いが無かった。
けれど今の僕は迷っている。
そして僕の変化に気付いている明子に恐れさえ感じている。
そんな事を思うと少し憂鬱になって来た。
上の階の新幹線ホームに新幹線が到着した事をコーヒーショップの窓を小刻みに震わせる轟音が教えてくれる。
僕は一度時計に目をやり、時刻を確認してコーヒーカップの底に残った僅かなコーヒーを飲み干し、返却口にカップを戻す。
バックの中に雑誌をしまいながら、コーヒーショップから改札までの5m程の僅かな距離をダルそうに歩く。