夏恵
比較的日当たりの良い改札口は冬場は快適だろうが、今の季節はクーラーが行き届いておらず、肌にまとわりつく様な嫌な熱気に包まれている。
僕は少し早めにコーヒーショップを出た事を後悔する。
上のホームの方から慌しい物音と声が聞こえてくる。
やがて大きな荷物を抱えた乗客達がエスカレーターを降りてきた。
楽しげな家族連れは意識的に視野に入れない様に、僕は取引相手を探した。
お土産を抱えた楽しげな人や、ビジネスバックを持った疲れきった人の群れが、改札を通り抜けて行く。
一通り人の群れが改札を通り過ぎ、皆それぞれにローカル線方面や駅前のバスターミナル方面に散って行く。
ただ一人、僕だけが改札前に取り残される。
僕は昨日、取引相手に改札前で待つ旨をしっかりと伝えたか思い出し、同時に今回も時間にルーズな人だったかと諦めて、コーヒーショップで軽くサンドイッチでも食べようかとも思った。
2分程誰も通らなくなった改札前で次に停車する新幹線の時刻表を睨み、僕はコーヒーショップに体を向ける。
そんな矢先に僕の胸ポケットの携帯が震える。
僕はこの時に初めて北側の改札を思い出し、自分に落胆する。