夏恵

改札の10m程前に来ると、少し大袈裟に思える荷物を抱えた男が僕に気付き視線を向ける。

僕は『須藤』と言う男と電話での会話しかした事が無い。

比較的人当たりが良く好感の持てる感じの話し方をする男で、声色からして僕の10歳位上の男性を想像していた。

実際に3m程前まで近付いた時に僕とそれ程変わらない年の頃に見え、僕は少し驚いた。


『・・・吉岡さん?』


『はい。』


僕は彼の前に立ち、予め胸ポケットに何枚か忍ばせていた名刺を取り出す。

彼は僕の仕草に慌てて抱えていたバックを後ろ手に回しポケットの名刺入れを取り出そうとした。
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