夏恵
『ママさんは知ってましたよねぇ?』
『いえ・・私もソコまでは・・・』
『えぇっ?!頼んますわママさ~ん。』
須藤は美由紀の顔を見て不安になり同意を求めたが、可笑しな事に店の名付け親ですら深い意味まで理解していなかったらしい。
そしてこのやり取りは僕も含め皆の笑いを誘った。
『ただねぇ・・・吉岡さん。タナトスってのもあるんですわ。』
『・・・タナトス?』
『生命を生み出す性の欲求のエロスと対をなすのがタナトスですわ・・・死や自己を破壊する様な欲求ですわな。私ねこれもリビドーやと思うんですわ。エッチしてて毎回毎回俺って生きてるわぁ!!なんて思わんでしょ?』
『・・・はぁ』
『時にはエッチの時に、このまま息絶えてしまいたいような瞬間ってありますやん。これはタナトス以外の何者でもないでしょ?』
『私は死にたいなんて思いませんよ・・・』
汗をかいたグラスをおしぼりで丁寧に拭きコースターの上に置きながら、美由紀は須藤の話をやんわりと否定した。