今日も俺は翻弄される
そんなことはないと、ぶんぶんと勢いよく首を振り、慌てて否定する。


俺の反応が気に食わなかったのか、いつも通りの少し捻くれた彼女そのものの受け答えだった。話している内容はいつもと全然違うけど。


「嫌じゃないです。だって、俺も好きですから。だからもう一回」


彼女の気分が変わってしまっては大変だ。今度は思ったことを素直に言葉にして、キスをする。腰に腕を回して引き寄せて、啄むようなキスから角度を変えてどんどん深く深く。


彼女から漏れる息も俺をどんどんと煽り、欲がむくむくと大きくなっていく。我慢できずにシャツの隙間から手を入れようとすると、急に彼女が離れてしまった。


「今日は気分じゃないや。それ飲んだら帰ってね」


さっきまでの甘い雰囲気はいったいどこへ消えてしまったのか。井上さんはくるりと踵を返し俺から離れて行ってしまった。


そんな……つい声に出しそうになったけど、後ろから見た彼女の真っ赤な耳を見て頬を緩ませた。


やばい、可愛いな。急いで立ち上がり、去っていく彼女を追いかける。


「嫌ですよ、帰りませんから」


こんなに俺の事を煽ってくれたんだ、きっちり責任は取ってもらおう。どうしてこの人は俺の事をこうも振り回してくれるんだろう。


でもこんな関係も嫌いじゃない。彼女の掌の上をころころと上手に転がされて、それが俺には心地いい。

今日も明日も明後日も俺は喜んで貴女に翻弄される。





『今日も俺は翻弄される』Fin.
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