綿本早香の壁ドン指南
土屋先生の壁ドン
次の日もその次の日も、シンバルはどんどん上達するけれど…

「いやぁ、壁ドンのチャンスって、なかなかないね」

「何言うてんねん。チャンスならあったやろ。先輩、わざと逃してたやろ」

皆が帰った後の部室で綿本と二人きりになって、僕は怒られてうつむいた。

「水岡先輩、ええ男やで! 自信持ちーな!」

綿本が突然言い出した。

「ウチな、だいぶ前やけどな、部活終わって帰ろ思って、忘れもんして部室に戻ったことあんねん。そしたら残ってた部員が、ウチが居ない思うて、ウチの方言の悪口言うとってな。ウチ、悔しゅうて…。でもな、水岡先輩がそいつら止めてくれたん。ウチが居らんのにやで。ウチはあの場に出て行く勇気なくって、そんで先輩にもずっとお礼言えんかったんやけど、ホンマにありがとうやで! ウチ、めっちゃ嬉しかったん! だからな、水岡先輩が幸せになるためやったら、ウチがちーとばかし寂しい思いすんのぐらい全然平気やねん!!」

「え…?」

言われてみればそんなこともあったような気もする。

でも、あれ?

最後の方、おかしくなかった?

「ほな、そろそろ帰ろ! 先輩の家、ウチと同じ方向やろ?」
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