最後の恋愛
最終章 「その夜」
*その夜*

所長、まさかの定時退社。

いつもは、会社の住人じゃないかってくらい遅くまで働いてるくせに。

うう・・・何を言われるんだろう。

酒は飲んでものまれるなとか、20歳の子に言うような注意をするつもりじゃないよね?

会社に入社した時から、私の上司であった大麦はいつだって堅実、実直、真面目を絵に描いたような人で、口やかましく、君って馬鹿?みたいなことまでも笑顔で言ったりするドS(想像するに)男だ。

仕事が出来るというのは、認めるけど、それとこれとは話が別である。

彼が致した冷たい態度とその笑顔で幾人の新入社員が去って行ったか分からない。

柊の扉に手をかけて、そういや、と考えた。

大麦が結婚してるのかとか彼女がいるのかとか知らないけど、いるよね、普通。

なら、何の話だろ・・・。

カランカラン

穏やかな音楽が流れる店内に大麦の姿を見つけるのは簡単だった。

カウンター席、いつもの定位置。

「こんばんは・・・。」

首ねっこを掴まれた猫の気分で会釈すると、大麦はくすっと笑った。

夜の大麦は、いつもよりも渋い感じに見える。

カウンター席、大麦の隣に腰掛けて、マスターを見た。

「おっす。大和ちゃん、いつものカクテルで良い?」

「そうですね。」

と答えて、大麦をちらりと見遣った。

「へぇ、大和ちゃん、って呼ばれてるの。」

「そ、そうですね。もう、長い付き合いでして・・・。」

そう言って、えへへと笑い返した。
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