最後の恋愛
エレベーターを待つ間も、大麦の若干背後で居心地悪くもぞもぞしていた。

いつもと違う私は十分に見たのだろう、大麦よ!

もう開放してくれ!

大麦はくすっと笑って振り返った。

「何もとって食おうってんじゃないんだから、そう硬くなるなよ。」

・・・ん?

何か、言葉遣いがいつもと違ったような。

「お前さ、会社じゃ自分作ってたんだな。俺と一緒。」

・・・

聞き違いでも勘違いでもなかった模様です。

「え、えっと―。」

チン

ちょうど良い具合にエレベーターが着ました。

大麦は微笑んで先に乗り込む。

それに後からついていく。

1階を押して、大麦はくるりと振り返った。

じっと見つめてくるその視線は、いつもの大麦とは違って、妙な熱を感じる。

気圧されるように、一歩後ずさった。

何しろ、狭い箱だから背中に壁がドンと当たった。

「いつ別れるかな、って思ってたけど。待ってて正解だったな。」

「どういうことですか・・・。」

そうだよ、いつ別れるって・・・そんなに見てたわけ?

「どういうって―。」

くすっと不敵な笑みを浮かべて、壁にドンと手をついた。

「なっ」

大麦の年齢は何歳だっただろうか。

恋愛対象として見てなかったせいで、聞いたことはあるはずのその歳も記憶にない。

この人の顔だって、こんな近くで見るのは初めてだ。

以外にも深い彫り、鼻も高いし、りりしい眉。

いつもは、意地悪な笑顔なのに、今は真剣で、かつ男の顔をしてる。

ドキっと胸が早鐘を打った。

近付いたその顔、まもなく、唇をふさがれる。

思わず目を瞑って、少し身じろいだ。
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