【壁ドン企画】 あ。もう俺の負けでかまいません。
「あの、さ……」
社内を頭ん中に花とこいつ浮かべながらぼんやり歩いていた時、たまたまこいつを見つけて、目が合った。
なのに、ぷいって音がしそうなほどにそっぽを向くから、ついカっとなって腕を掴んで資料室に連れ込んで今に至る。
つーか。今気付いたけど、小中高大に留まらず会社まで一緒ってもう運命だと思う。
日中だっていうのに、窓が小さいせいで薄暗い資料室。
古い本の匂いが充満し、小さい窓から差し込む光には埃がチラチラと映し出されていた。
連れ込んだものの、何を言おうか。
そう思い、後ろ頭をガシガシかいていると、鈴の鳴るような声が言った。
「別に、先週の事なら気にしてないから」
「……へ?」
「だから、先週の事。どうせ、ついうっかり……とかそういう事を言いたくて話しかけてきたんでしょ」
驚いて顔をしかめたけど、20センチ以上低い場所からの視線は返ってこない。
逸らされたままの目は伏せられていた。
長い睫が感情を隠す。
「いや……俺はそういう話をしたいんじゃなくて……」
「別にいいから。あんたがどういうヤツか知ってるし。フラフラして女の子つまみ食いするのが趣味で、それなのに言い寄ってくる女の子が耐えない美系クサレモテ野郎って分かってるし」
「……うん。いや、クサレ……まぁ、うん。そうか」
「たまたま、やりたい時に私が目の前にいただけで、あれに深い意味がないって事くらい、ちゃんと分かってる」