【短編】5℃。
鞄の中でスマホが鳴る。歩道の脇で立ち止まり、取り出した。噂をすれば(ひとり噂だけど)ナントやら、画面に表示された文字は吉田だった。


「お疲れさん」
「お疲れ様。何」
「なんだよ。そのふてくされた返事の仕方」
「元々こーゆー女なの。なんか文句ある?」
「ある。ホント可愛くねえの」
「あのね」


私の手は震えていた。何故だか分からない。寒いから? そう言えば今夜は一番の冷え込みになるって天気予報で聞いた気がする。なんだか胸も痛い。きゅうっと心臓を握られたみたいに。


「明日さ」
「吉田の誕生日でしょ?」
「なんだ、分かってりゃ宜しい。付き合え」
「はああ? 何、付き合えって」
「付き合えったら、付き合え」
「おごってくれたら考える」
「なんで誕生日の俺が払うんだよ」
「“これまで生きてこれたのは皆様のお陰ですありがとうございます”ってね!!」
「てめぇ、アホか」
「アホ?? あ……」



『告白しようかと思って』



……思い出した。同期が明日、吉田に告白するんだった。


「いかない」
「なんで」
「何でも。じゃあね」


プツン。私は一方的に通話を切った。

静かになったはずの私の耳にはうるさいほどの鼓動が聞こえた。何、何なんだろう。



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