こんなのズルイ。
こんなのズルイ。
「うっ、ううっ、う……」

 目頭をハンカチで押さえたけれど、涙は後から後から溢れてくる。

「悲しい。悲しすぎるよぅ……」

 私の髪にコウタの手が触れ、彼の呆れたような声が降ってくる。

「アオイってこんなに泣き虫だったっけ?」
「だ、だって……愛する人を守るために身を引くなんて……かわいそすぎるよぉ」

 上映が終わって観客が帰り始めた映画館の座席から、私はまだ立ち上がれずにいた。職場の先輩に「めっちゃ泣けるから!」と勧められてコウタと一緒に観に来た映画。その結末があまりにも切なすぎて、どうしても涙が止まらない。

「仕方ないなぁ……。ほら、顔上げて」

 コウタに言われて顔を上げると、いきなり彼の顔が迫ってきた。あっと思う間もなく、彼の唇が目尻に触れて、涙をチュッと吸い取られる。

「涙、止まったか?」

 同い年なのにどこか人生を達観したところのあるコウタ。その彼の突然の大胆な行動に、私はコクコクとうなずいた。驚いたせいか涙も止まっている。

「それなら行こうか」

 彼が立ち上がったので、私も後に続いた。あんなに大胆なことをしたのに、彼の手はいつもと同じようにズボンのポケットに入れられている。


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