遥か彼方(短編)
〜♪
「んん。朝からメール?誰ぇ?」
遙からだった。
『おはよ。朝からごめんな。今日から俺入院することになった。見舞い来てな?一応抗がん剤飲むことにしたよ。俺、頑張るな!』
入院…。
骨肉腫…。
「…えぐっ…やだよぉ…っ…遙ぁ…」
私、泣いてる場合じゃない…。
行かなきゃ。
「おかあさん。今日学校休むね。病院行ってくる。」
「え?葵、なに行って…。ああ、遙君ね。今日だけよ…。」
おかあさん、ありがとう。
私はバスで遙のいる病院へ向かった。
ここか…。
コンコン
「はい。」
「はーるか!やっほー!」
「え?葵?お前学校は?」
「今日だけ休んだよ。」
休むに決まってんじゃん。
だって、好きなんだもん。
「ねぇ、昨日調べたんだけど、抗がん剤って、髪抜けるんでしょ?」
「あー、そうらしいなー。」
「遙、ハゲになるねー(笑)」
「おい。それ言うなよ〜(笑)」
嘘みたい。
こんなに明るく笑っているのに、遙がガンなんて……。
「ねー、売店行ってくる〜。」
「おう。あ、ポテチ買ってきて!俺の財布使っていいから。」
「ポテチねー。」
ガラガラガラ
ふぅ。
ヤバい。泣きそう。
今まで死とは無縁だった。
こんなに近い人が死にそうだなんて…。
昨日まであんなに笑ってたじゃん。
「……っうわぁん……なんでぇ…いやだよ…っ…」
「あら?葵ちゃん?」
「ぐすっ…おばさん…。」
目の前にいたのは遙のおかあさん。
泣いてるの見られちゃった…。
「泣いてる理由って、やっぱり遙?」
「…うん。勝手に涙が出てくるの…。」
「あのこのために、ありがとうね…。私もね、最初は葵ちゃんみたいにずっと泣いてたわ。でもね、あの子が一生懸命生きてるのに私が泣いてると、大切な時間がなくなっていくような気がして…。」
おばさん…。
「ごめんおばさん。あと、ありがとう。」
「いえいえ。あ、おつかいをしてくれないかしら?明日、持ってきてほしいの。はい。お金。あと、この紙に書いてあるから…。」
「わかった。任せて!」
なんだろう。おばさんといると涙が止まるんだ。
紙に書いてあることは、“インスタントカメラを買って、二人の写真をとってください”
思い出作りに多分使うんだね…。
「あ、ポテチ…」
私は早足で売店へ向かった。