そういうとこ、すき
「指環…後輩の子に取られた。今どこにあるか…わかんない。」
「え…?」
「…明日もう一回ちゃんと話す、…けど、戻ってこなかったら…ごめん。」
「……それ、だけ…?」
「…怒って、ないの?」
「っ…はぁ……。」

 背中にドアがあるのをいいことに、澪波はズルズルとしゃがんだ。力が抜けて仕方がない。

「え?澪波?」

 慌てて澪波の視界の高さまで降りてくる聡太に笑みが溢れる。一瞬でも不安になったことが、これではあまりに失礼だ。

「…指環ないからびっくりしたよ。何言われちゃうのかなって。でもごめん。私の方がごめんなさい…だね。」
「…別れ話でも切り出されるかと思った?」
「帰り遅いし、なんかワケアリっぽい顔してたし、ごめんとか言われたし、指環はないし。」
「俺の愛情表現が足りなかったのかなぁ。それも反省するよ。」

 ゆっくりと伸びてきた腕。それが後頭部に回るのは、澪波がドアに頭をぶつけないためだと知っている。この優しい手がこの上なく好きだ。
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