極妻
「…………う…そ」


「朔夜様は全身に大火傷を負って集中治療室に運ばれました。一時は大変に危険な状態でしたが、いまはなんとか…」


「嘘!嘘や!旦那さんがうちを助けたやて!?そんなはずないやん!?うちを助けたんは…!」


『尊兄ちゃんや!!』


そう叫ぼうとした声が出なかった。


鬼塚さんはこんな嘘や冗談を言う人やない。それは分かってる。


つまり、浴室で煙にまかれ意識朦朧としてきたあの時。私の名前を呼んだのは。ガラスを割って、抱きかかえくれたのは……


尊兄ちゃんやなくて、朔夜やったの!?!!
私は尊兄ちゃんの幻を見たん!?


そんな……


確かに冷静に考えたら、兄ちゃんがあの場所にいるはずない。


でも、なんで朔夜が!?
私のこと、『ただの暇潰し』やって言ったやない!?好きで夫婦になったんやないって!!


なのに、なんで命がけで助けたりすんの!?


「…旦那さんに会わして…っ」


すると鬼塚さんは力なく首を横にふった。


「まだ意識が戻られません」



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