極妻
8)兄と妹


私は、また幻を見てるんやろか?


息を切らして、病室に飛び込んできたのは尊兄ちゃんやった。しかも、まるで全速力で走ってきたかのように。


ふだんは皺ひとつない高級なスーツに身を包み、涼しい表情をしてるのに、今目の前にいる兄ちゃんは、なりふり構わず飛んできたような顔をしてる。


これは……夢?


「小夜子!無事か!?えらい目に遇うたな。かわいそうに」


兄ちゃんが声を震わせながら傍に近寄ってきた。いつも落ち着いててクールな兄ちゃんとは思えん。


私のことが心配でたまらないような顔。綺麗で大好きな二つの瞳と目が合った。


「…た…たける…にいちゃ…」


幻でも夢でもない。本物や。会いたかった。本物の尊兄ちゃんや。


「西園寺さん……?この人、誰……?」


呆気にとられる市川さんたちの問にも答えられない。涙が自然と溢れて落ちた。




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