極妻
その言葉で反射的に立ち上がった。


戸を勢いよく開けると、そこに樋ノ上さんが表情もなく立っていた。


「いつもの場所で9時に待ってるそうです。そうお伝えするようにと」


「え?いつもの場所!?それってどこ!?」


「そう言えば、小夜子様なら分かる筈だと。それと誰にも内緒でと」


「ええ!?」


不思議に思って、ジーッと樋ノ上さんを見てしまったけど、元々表情に乏しい彼女も無言で私を見つめかえすだけ。


そしてこの時、ふと視線を感じた。


見れば廊下のすみに、お方様のひとり、乃愛さんが立っていたのだ。
なにも感じ取れない冷たい瞳に、私は思わず目をそらした。


「分かったわ。ありがとう」


樋ノ上さんが返事する前に、あわてて部屋の戸をまた閉めた。


聞かれた?

まあええわ……それより、いつもの場所って……?
もしかしてあの美術室やろか。


それ以外思い浮かばん。……うーん、でもなんでわざわざ学校??屋敷でもええのに。


屋敷の人に聞かれたらまずい話?


疑問に思いながらちらっと時計に目をやると、針はもうすぐ8時を指すところだった。


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