極妻







「――たける兄ちゃん!!――…尊兄ちゃん!!――…」


小さいころに、よく兄ちゃんと虫取をして遊んだ林にやって来た。


ここで、兄ちゃんは私を待ってくれてる。



「兄ちゃん!?兄ちゃん!?どこ!?」



でも辺りはどんどん暗くなり、霧まで立ち込めてきた。心が不安で重くなる。


「――小夜子、……小夜子」



兄ちゃん!?



振り返ると、夕闇のなかにぼんやりと立つ兄ちゃんが見えた。まるで生きた人やなく、幽霊みたい。


「尊兄ちゃん!!いま行くから!!」


渾身の声で叫んで走りよろうとした。けどすぐ足が止まる。よく見たら兄ちゃんの足元に小川が流れていて、なぜやかそこに足をいれることができない。



「アカン、お前はこっちに来れへん」




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