極妻
悪戯好きの子供の顔でしれっと言う旦那さんに、ぶるぶると手が震えた。


「そ、そんでこんな無謀なことして…だいたい何でひとりで来たん?…何で正体明かさへんかったん?組の人らまわせばあんなヤツら…」



「ガキ共の遊びでんなダセエ真似ができっかよ。だいたい小夜子は『ヤクザが死ぬほど嫌い』なんだろ?俺が死んでくれた方が都合良くね?」


「……そ、それは」


さっきの話、部屋の外まで聴こえてたんやな。確かにうちはヤクザが嫌いや。


家が、親が、尊兄ちゃんがヤクザやなかったら……ってどれだけ願ったか知れん。


「小夜子。俺が組のヤツら引き連れて行けば良かったか?正体明かせば良かったか?だな。そうすりゃ喧嘩に負けることもなかったろーよ」


「…え?」


「でもそれをやっちまったら俺の敗けなんだよ」


「…………」


「ところでいつまで俺の手ェ握ってる気だ?」


「……………!?」


旦那さんのその言葉で、はっと我に返った。走ってきたときからずっと繋いだままやった!


「さっきは城川らに大した啖呵を切ってたクセに、実は震えてんじゃねーか」


「そんなことないわッ!」


からかうような口調にカアッときて、繋いだ手を慌てて振りはらった。


.
< 95 / 303 >

この作品をシェア

pagetop