君がいなきゃダメなんだ。【壁ドン企画】
*先生、質問があります。
「──では、次回はりんごの加工貯蔵法について実習します。
りんごジャムを作るので、皆さんビンを用意して第ニ実験室に集まってくださいね」
教壇に立つ、白衣姿の男性がそう言うと、大勢の女子学生が「はぁい」と黄色い返事をする。
彼女達に向かって、准教授である彼は、黒いフレームの眼鏡の奥の瞳をわずかに細めた。
百八十近くあるだろう長身の彼──冴木(サエキ)先生は、スタイルも良く顔立ちも整っていて美形。
三十四歳という年齢を感じさせないほど若々しく、女子学生達から日々熱い視線を送られながら授業をしている。
「冴木センセー! ちょっと質問があるんですけど」
授業後、こうして女子に引き留められるのはほぼ毎回のこと。
「はい、何でしょう」
「彼女いますかぁ?」
「その質問にはお答え出来ません」
「ケチー!」
音声応答のように表情を変えず淡々と返す先生。
イケメンのくせに研究以外のことにはまったく興味がなさそうで、生態が謎だと学生達は嘆いているけれど。
「さて。戻りましょう、雪乃(ユキノ)さん」
「はい」
長い白衣を翻した彼と一緒に行動を共に出来る助手の私は、きっと皆が知らない彼を知っている。
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