君がいなきゃダメなんだ。【壁ドン企画】
数日後、今にも雨が降り出しそうな黒い雲が広がる午後、講義を終えて研究室に戻ってきた冴木先生が白衣を脱ぐ。
その絵になる姿を、棚の上の方にある参考書を取ろうと、目一杯手を伸ばしながら見つめていると、彼は思い出したように言う。
「そうだ、実習に使うりんごを買ってこなきゃいけないんでしたね」
「あ、それなら私が──」
「一箱ですよ? 重いからいいです」
あぁ、たしかに八百屋さんはここから歩いて十五分くらいの商店街にあるけど、りんご一箱抱えながら歩くのはちょっと大変か……。
手を伸ばしたまま押し黙ると、白衣をハンガーに掛けた先生が近付き、私にぴたりと寄り添うように立った。
──ドキン!と心臓を飛び跳ねさせる私の背後から、彼が楽々と目当ての本を取る。
「君は完璧な助手だけど、こういう時は素直に甘えなさい」
低く、艶のある声が頭上から響き、私に本を手渡す。
間近で見上げた彼は、年齢に相応しくないきめ細かく綺麗な肌をしていて、
その瞳は、優しげだけれど男の色気が漂っていることが見て取れた。