紅い死神は闇を跳ぶ
「だから違うって」
まだ変な事を考えているのかにやにやと笑いながら廊下の壁にもたれるシャンの横を素通りし、ヴォルは密かにため息をついた。
(こんなことなら一緒に帰っていれば良かった・・・)
下校の時いつもは一緒に帰ってくるのだが日直だったため先に帰ってもらったのだ。
「下校途中で・・・」
埃でところどころ白くなっている制服を脱ぎながら説明した。
シャンはソファーに腰を落としテーブルに置かれていた紅茶を飲みながら目線を向けていた。
彼にしては珍しく、時々相槌をうちながら静かに聞いている。
一通り話し終わった所でちらっと見てみると、珈琲カップの底の砂糖を舐めているようで、完全に意識はそちらに集中している。
人影のことは話していない。
ヴォルとしてもどう説明すればいいのか分からなかったからだ。
「災難だったなァ。ま、Don't mindだ。お疲れ様~」
大して興味もないようにひらひらと片手を振って適当に受け流すシャンを見て、ヴォルはふっと微笑った。
シャワーを浴びるためにシャツを脱いだ。
その時に擦ったのか手首が火傷のようにちりっと痛んだ。
ジンジンと疼く痛みに眉をひそめて手首を見ると、紐で思い切り締め付けられたかのような赤い痕が手首を一周する形でついていた。
痕をゆっくりとなぞる。
その部分は微かに熱を持っていて、なぞった指が冷たく心地よかった。