二十年後のクリスマスイブ
約束の日
「遂にこの日が来たか…」

 日常の開店準備を終え、ドアに掛けてある表札をCLOSEからOPENに裏返して店主の新井が微笑みながら呟いた。
「永いようで短いものだな…二十年の時もあっという間だった気がする」
 しかし、周りの景色をゆっくりと眺めてみると当時とは全く違う街並みになっていた。

 喫茶店《南風》は、開店してから二十一年目を迎えたが、スタイルは当時を貫き通して今日という日を待っていた。

「物は古くなっても変えようとしなければ変わらないが、人間はどうしたものか?…」

 新井は店内に戻り見回すと色々な部分の老朽化は目に付くものの、それらを長い期間、維持出来た事に不思議な達成感が沸いた。

「彼等の約束のお蔭で此処まで保てたようなものだな…」

 時代の流れは早く…新しいものに次々と圧される中で変わらず店の営業が続けられてきた事に感謝した。
 全ては二十年前のクリスマスイブが無ければ変わっていたかも知れなかった。

「あの日があったから今がある…」

 運命的なものを、とうに還暦を過ぎた新井は新ためて感じた。
 愛した妻に先立たれ取り残された孤独感を薄らげるならと始めた店に二人は現れるようになった。
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