二十年後のクリスマスイブ

二十年後のクリスマスイブ

゛カランカラン゛とドアのベルが鳴る度に今日の新井の心拍数は瞬間的にピークを迎えていた。

「ふぅ、違うか流石に、この時間じゃ早いな? だが、俺も歳を取ったものだ…今日は、心臓に負担が掛かるな…」

 本日五人目の客も常連のサラリーマンで、いつものように朝刊をラックから抜いて、空いている奥のテーブル席に向かって行った。新井は溜め息を吐きながら、お冷やとお絞りを用意してそこに向かった。
 いつもの変哲の無い、日常的な始まりであった。
 しかし、二十年後のクリスマスイブは確かに今日である。桐人と律子からは、この二十年間全くどちらからも音信不通である事に、不安は少なからずある。昨夜も桐人から預かった指輪を確認して、狸と狐に化かされたのではないと胸を撫で下ろした。
「この指輪一つで都内ののマンション楽に買えますよ…」
 やってはいけない行為だったかも知れない。
 新井にも厳しい時があった。この二十年の間に日本という国は激動している。高度成長期のピークを迎えバブル時代が訪れたと思えば、急激な減速…この時から日本という国の安売りが始まった。外資系の企業が軒並み参入し始め、その値段と手軽さから喫茶店も煽りをくい始めた。
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