二十年後のクリスマスイブ
《南風》も例外では無く経営は安定したものでは無くなってしまった。

 資金繰りに困った時も有り色々考えていた時、宝石に詳しい客が来て、桐人が気軽に預けた指輪を鑑定して貰ったところ、その客も驚く程の高額な値打ち物であった。

「マンションが買える?…」

 そう言われて新井の心の中で葛藤が始まった。
「今の状況が、この指輪一つで代えられるかも知れない…しかし……」

 この指輪が自分にとっての支えで、今迄やって来たという思いと時代の流れという試練に新井は深く考えさせられた。

「これだけの価値ある物を桐人は何故、俺に預けたのだろう?これが、特別に高価な物と感じさせず、まるで露店で買った玩具のような物だと云うような預け方だった…」

 追い込まれた人間は全てに楽な方に逃げてしまう。

「この指輪を売り、これからの店の運転資金に回したとしても桐人は何も言わないだろう…時代が、こういう風にしたからと言う理由にすれば…」

「喫茶店って、煙草とコーヒーの混ざった独特な香り。それと、良いマスターと適度な客が居る雰囲気が心を落ち着かせてくれるんだよね…」

 桐人との何気無い会話の一部を新井は思い出した。
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