二十年後のクリスマスイブ
 新井が微笑みながら言った。

「それは又、遠い先の話ですね。夢の有る話だ…」

「そう思われますか?やっぱり…」

「良ければ、何が遇ったのか事情を聞きたいものですね。」

「その日が来るのを心待ちの毎日ですね。今は貴方と同じ位の歳になっています。子供の居ない私には、不思議と二人が我が子の様に勝手に感じていますが…」

「私と歳が近い?では、四十を回った頃に此処に現れると云う事ですね…私も拝見させて頂いた指輪に何か感じるものがあります。2008年のクリスマスイブか…もし、時間があれば私も此処に来ます。宜しいでしょうか?…」

「宜しいも何も、御客様ですから喜んでお待ちしております。これは、益々頑張らないといけませんね、この店が潰れては元も子もない…」

 新井は、店の台所事情を悟らせない様な笑みで答えた。

「この店は、マスターが居る限り大丈夫ですよ。お店と云うのは、人ありきです。此処は今の日本人が見失いかけているものを教えてくれる気がして、不思議と安らぎを感じます…折角、良い店と縁が出来たのに暫くは日本から離れなくてはなりません。残念です…」

「指輪の持ち主も同じ事を言ってました…」
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