可愛くねぇ
強がり↔素直
昨日
「朔のバカ!」
「うるせぇ、チビ」
「チビじゃないし、女ったらし!」
「ったく、可愛くねぇ女」
朔(サク)の言葉にズキンと胸が痛む。
だけど私は強がるんだ。
「朔になんて可愛いと思われたくないし」
エイッと朔の脛を一蹴りして、背を向けて駆け出した。
「いってぇ!待てよ、メグ」
追い掛けてくる朔の声は聞こえない振りをした。
走って走って、角を曲がって階段を掛け下りた。
ズキズキする胸を押さえたのは、誰も居ない非常階段。
同期入社の朔とはいつもこんな感じ。
初めて会った日から、私達はいつもこんな風に喧嘩してる。
髪を茶髪にしたヤンチャな朔と、黒髪を後ろで一つくくりした真面目な私は犬猿の仲。
だけど、本当は仲良くしたい。
だって、朔が好きだもん。
一目惚れだった。
だから、照れ隠しに生意気な口を利いてしまって。
そしたら、朔もあんな風に私をからかう様になった。
気が付いたら、私達は社内でも有名なコンビになっていて。
こんなんじゃ女の子に見てもらえないと自覚した時には遅かった。
きっと朔には私は女の子として写ってない。
格好いい朔に言い寄る女の子は皆可愛くて素直な人ばっかりで。
私なんてダメだよね?
壁に背を預けて溜め息をついた。
可愛くなろうと思うのに、朔を前にするとちっとも可愛くなんてなれない私は、本当にバかだ。
「朔...のバカ...」
そう漏らして、涙を一筋流した。
今回の喧嘩だって、本当に単純な話。
朔が私と私の可愛い友達を比較した。
「希(ノゾミ)はこんなにも可愛くて素直なのに友達のお前が可愛くねぇってどうなの?」
朔はそう言った。
冗談めかして言ってたのは分かってた。
だけど、ムカついたんだ。
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