薬指の秘密
どこか遠くから規則正しい機械音が聞こえる

それが電話の着信音だと気がつくには、少し時間がかかった

「…はい」

暗闇の中小さく光るそれを手に取って、耳に当てれば聞こえてくるのは

「あ、海斗?寝てた?」

少し酔っているだろうしるふの声

「今起きた」

時計を見やれば11時30を指している

日本の地を踏んですでに4時間が経とうとしていた

「ごめんね。やっぱりタクシーで帰ろうか」

「いいよ。迎え行く」

言いつつ布団から抜け出してコート片手に玄関に向かう

「そう?じゃあ、待ってる」

気を付けてね

電話の切れた携帯をポケットに入れてドアを開ければ、

きん、と冷え切った廊下の空気に少し残っていた眠気さえ消えてしまう



「送ってこうか、立花」

切れた電話を見つめていると背後から山岸が近寄ってくる

「って言ってもタクシーでだけど」

と苦笑交じりに付け加える
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