薬指の秘密
「愚問」

初対面から医者だと認識されていない時点で親睦を深めるつもりはない

少なくとも今はERの医師が海斗の本業

黒崎病院の経営など労働契約には記載されていない

「山岸君良い人なんだけどなあ」

ノリがいいし基本笑顔だし少しお調子者だけど

「あんまりしゃべってると襲うぞ」

「4日ぶりの海斗だ」

連絡くれないんだもん、危うく海斗を忘れるところだった

「何かしらメールを送ってきてたくせによく言う」

「だって、」

寂しかったなんて認めたくない

「海斗が寂しいかと思って」

「そう言うことにしておこうか」

すべてわかっているような海斗の言葉が面白くなくてドアの外に視線を投げる

流れていく電球に彩られた街路樹

流れる沈黙は、数日ぶりの心地よさ

「そう言えばクリスマスどうす…るって」

マンションの駐車場に車を止めてしるふを見やれば、規則的に上下する肩

顔は髪で隠れてしまっているけれど、聞こえてくるのは寝息

ふ、と息をついて

けれど口元に宿すのは、笑み

「風邪ひくぞ」

伸ばした手は、そっと髪を耳にかけるだけ
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