薬指の秘密
「じゃあ、あれお願いします」

間髪入れず、びしっと指さされたショーウィンドウ

「お前、決めてたろ」

実は

「今季限定の商品ですね。こちらにございますのでどうぞ」

ふかふかのカーペットの歩いて覗き込むショーケース

鍵を開けて取り出されたそれは何度も何度も眺めた輝き

並ぶ二つのリング

お手を、と微笑まれはたと動きを止める

見つめるのは自分の両手

「どうした」

「えっと…どっちの手かなって」

「右だろ」

左はまだ空けとけ

そのうちもっと高いものをはめる時が来るだろうから

「うん」

緩む頬を抑えきれず、手を差し出すとゆっくりとはまるシルバーの輝き

「少しゆるいようですね」

くるくると簡単に回ってしまうし、手を振ればずれるような気がしないでもない

「じゃあ、もう一つ小さいのはめてみていいですか」

で、

「海斗、右手貸してよ」
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