私の欲しい人
失恋した男に効く薬


大晦日を翌日に控えた年の瀬に。

私の好きな人は失恋した。



彼が長年、好きだった『彼女』が『彼氏』を伴って、彼のケーキ屋にやって来た。



私に言わせて貰えば、既にその予兆はあったと思う。

ちょっと前に、クリスマスケーキを予約した時の『彼女』が、いつもより幸せそうに見えたから。

でも、女の気持ちに疎い彼には、それが見えて無いようで。

『彼女』の前では、強面な顔を緩めて笑う彼を見て、私の胸がチクリとした。



馬鹿な人。

好きならば『彼女』の仕事が忙しそうだから、なんて遠慮せず、好きって伝えれば良かったのに。

遠慮をしない人の方が、その幸運は掴めるらしい。



ーーー
「三島さん。店内掃除、終わりましたよ」

私が事務室の扉から顔を覗かせると「うん」とだけ頷く三島さん。

彼は、このケーキ屋のオーナーパティシエだ。

製菓の専門学校を卒業した後、有名ホテルのパティシエとなり、2年程前に独立した。
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