私の欲しい人
二十代で店舗を持とうと決めて、その夢を実現させた彼は努力の人だ。


「アルバイトの2人は帰りましたよ。ケーキのお礼伝えといて下さいって」

「ああ、残った奴だし……年末にケーキ食う奴もいないよな。どうせ明日も暇だよ」

狭い事務室の中、馴染みのある強い香りがすることに気付いて、私は足を踏み入れた。

事務机の上にあるパソコンの隣りには、マグカップが置いてあるけれど。

中身はコーヒーでは無さそうだ。


「あ、ラム酒」

菓子の香り付けに使用しているけれど、製菓用ではない拘りの品なのに。

菓子ではなく、三島さんが香り付けられている。


ぼんやりとパソコンを見詰める彼を、更に私が見詰める構図に、自然と苦い笑いが浮かぶ。

「何?」

私ではなくパソコンを見たままの、三島さんは無表情。と、言うよりこれが彼にとっての普通なのだ。

その顔はあまり喜怒哀楽を示さない。


笑った時。口元が綻ぶ。

怒った時。目付きが鋭くなる。


今は差し詰め、意味も分からず笑われて、困惑してるところだろうか。



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