あの頃、今頃。
「お母さん!」
寝室で布団に包まり、気持ちよさそうに寝ている母をこれでもか、というくらいに蹴り起こした。
「痛!何よ……朝っぱらから騒々しい」
「入学式!時間!遅刻!」
あまりに慌てる私を見て、母は「まさか」とでも言いたげな表情で目覚まし時計に視線を巡らせた。
「く……9時〜!?」
私と同じように跳び起き、寝癖でボサボサな髪に触れることもなく、どたばたと父を起こしに走りだした。
その間に私は、テーブルに置いてあった菓子パン2・3個を手に取って、無造作に口へ放り込む。
顔を洗い、まだ硬い制服に着替えた。
鏡に映った新しい自分の姿に、胸が高鳴る。
寝癖を直している暇なんかない。
私は肩ほどの長さの茶色い髪を2つに結い、軽く化粧を施す。
高速で用意した結果、5分後には家を出ることが出来た。
私は少々のんびり屋の父と、パニックしている母と一緒に、車に乗って新舞台へと向かった。