あの頃、今頃。


約10分かけ、やっとの思いで学校へと到着した。

校門の前には"桜木高校入学式"と書かれてる看板が立て掛けられている。

校内にはピカピカの制服に身を包み、胸を弾ませている生徒達と、その姿を見守る母親の姿が見えた。

体育館の壁時計が指すのは9時15分。

確か、入学式は20分からだ。


「ま、間に合った……」


同時に全身の力が抜け、私達"山本家"はその場にへたり込んだ。

父も母も「良かった、良かった」と安堵の表情を浮かべている。

ふと前を見ると、騒々しい私達に気付いたのか、校内の人ごみから1人の生徒が駆け寄って来た。


「天音ー!」


私よりも少し長い赤茶色の髪を2つに結った莉奈が、笑顔で走ってくる。


「莉奈ー!」


先ほどの電話の相手の莉奈だった。

短いスカートをなびかせながら、近づいてくる。

泣き出しそうになった私は、思わず莉奈に抱きついた。


「よしよし。間に合って良かったね」

「本当にありがとう!莉奈が電話してくれなかったら、私――……」

「いいって、いいって」


可笑しそうにケタケタと笑う莉奈。


「とにかく。体育館行こう!」

「うん!」


莉奈は背後にいる私の家族に一礼して、走り出した。

私も「いってきます」と元気に言い残し、莉奈の後を追っていった。
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