あくまで愛してます。
1:初対面と再会
「これで、委員会決めを終わりにします」
学級委員の一言を合図に、教室の空気が一気に緩んだ。
私も一息つく。
前では、まだ学級委員のふたりが今後の打ち合わせをしている。
「残念だったね、堀内さん」
黄色い髪を揺らして、白い歯を見せたのは保健委員になった湯谷千晴さん。
まぶしいくらいの黄色い髪と目元に貼られた小さな黒い星形のシールは、好きなアニメの登場人物になりきるためだと教えてもらった。
「残念って?」
「あれっ、図書委員に立候補してなかった?」
そういえばそうだった。
結果は、もうひとりの立候補者に決まってしまった。
「でも仕方ないよ。くじ引きだからね」
「くじ引きってのが納得いかない!絶対堀内さんのほうがよかったのに」
湯谷さんは例え外国人しかいない部屋に入れられてもすぐに打ち解けることができると思う。
現に私は、今初めて湯谷さんと話しているわけだけど、会話が続いている。
他の人だったら多分無理だ。
「ところでさ、堀内さんって七紙君と付き合ってるの?」
少し、素直すぎるかもしれない。
七紙君は、すぐとなりに座っているというのに。
「ううん。そんなことないよ」
「本当にー?」
「本当だよ」
どこをどう見てそう判断したのだろう。
となりの席。
ただそれだけで、親しくしている素振りは見せていないはずだ。
「んー。堀内さん……菜摘って呼んでいい?」
断る理由もないため、頷く。
「菜摘が男子と話してるとき、七紙君、すごい睨んでるからね」
「えっ」
思わず右隣に視線を向けると、七紙君は黒板を見つめて拳を握っていた。
黒板には、それぞれ委員会の委員になった人たちの名前が書かれている。
何が嬉しいんだろう。
「菜摘がくじ引くとき、七紙君、お祈りみたいなことしてたよ」
「きっと、何か頼みごとをしてたんだよ」
「例えば?」
「お弁当に玉子焼きが入ってるといいな、とか」
「あの様子はそんなレベルじゃないって。こう、グワーッて殺気立ってる感じ」
お祈りで殺気を放つとは、よほど大切な頼みごとだったのだろう。
とにかく、湯谷さんが期待しているようなことは、残念ながらないわけである。
「七紙君、あたしたちの声に気付かないのかな」
「黒板見るのに夢中だね」
「ガッツポーズしてるし、菜摘が図書委員にならなくて嬉しいんだよ」
「考えすぎだって」
頬を膨らませつまらなそうにする菜摘が面白くて笑いを溢したところで、着席を強いる学級委員の呼び掛けが始まった。