色気のない僕ら
「“キュンキュン”っていうのはですねー」
コホン、とひとつわざとらしく咳払いをすると。
彼女は自分の手にある缶ビールを愛おしそうに見つめながら語り始める。
「ドキドキするのとはまた微妙に違うんですよ。キュン、って胸の奥が跳ねる?絞められるって感じ?」
「………………」
彼女はなんだか偉そうに話を始めるけれど。
はっきり言おう。
なんのことだかさっぱりわからない。
こんなんでよく企画部、なんてところで仕事できてんな。
俺が取引先や上司なら、こいつに仕事を任せるの不安で仕方ねぇよ。
と、頭を抱えたくなるような彼女の説明はスルーする。
同じようにそんな俺の頭の中をスルーした彼女は。
顔の前で手をひらひらと振りながら、上機嫌にケラケラと笑った。
「まぁあんた相手じゃキュンキュンすることなんて無理だけどねー」
俺だってお前のこと喜ばす義理なんてねぇよ!!
いつもの俺ならきっとそう言ってた。
だけど。
この時は違った。
彼女の言葉の言い回し、それにアルコールの力も加わってか。
俺は彼女の隣にゆっくり移動をした。
「…言ったな?」