曖昧な関係の境界線
「長谷川くんの気持ち利用して……最低だし……これじゃ金城さんと一緒で……」
「もう言わなくていい」
俺は先輩の言葉を遮り抱き締めた。
「ただ一言だけでいい。先輩の気持ちを言ってくれればいいから」
俺の腕の中で先輩は潤んだ瞳で見つめてくる。
「長谷川くん……好き」
その言葉を聞いた瞬間、顔を赤くした先輩を壁に押し付けてキスをした。初めて気持ちが通じ合ったキスだ。
本当はもっとずっと前から気持ちが向き合っていたのに、今ようやくこの人を手に入れられたと実感できた。
「会社辞めるのは私のせい?」
唇が軽く触れ合ったまま、先輩は不安そうに声を漏らす。
「違うよ。確かに先輩と離れたかったのもあるけど、親の会社を継ぐのはほんと」
就職先は親の会社ではなく自分で決めたかった。でも結局は実家に帰ると決めた。
「一人前になったら迎えに来る」
俺の言葉に先輩は顔を上げた。
「先輩、社長夫人になる気ある?」
いたずらっぽく笑う俺に先輩の目が再び潤む。
「なる……なる気大有り!」
涙でぐちゃぐちゃな先輩の顔に思わず笑ってしまう。
「小さい会社だけどいい?」
「いい!」
「苦労させちゃうかもだけどそれでも?」
俺の言葉に先輩は何度も頷いた。
「必ず、迎えに来る」
「うん……待ってる」
もう一度先輩の唇を貪るように舌まで深く絡ませた。
席に戻ると2人でいなくなったことをからかわれ、先輩の泣き顔を誤魔化すのに必死になったのは言うまでもない。
END