曖昧な関係の境界線
最初は先輩から恋愛相談をされるだけの関係だった。先輩が金城さんのことをどんなに好きか聞かされるのは辛かったが、先輩のためだと応援した。
2人が付き合うことになったとき、「よかったですね」の言葉の裏で早く別れろと願っていた。そうしたら俺が慰めてあげるのにと。
付き合っていることは秘密にしているらしく、2人のことは社内で俺しか知らないようだったし、俺も金城さんの前では知らないふりをしていた。
先輩は同僚の女性社員に彼氏がいるとは言っていたが、それが金城さんだとは言わないでいた。
「金城さんが社内では秘密にしようって」と言われたそうだ。
1年前、金城さんが結婚した。しかし相手は佐伯先輩ではなかった。先輩は金城さんにとって都合のいい女だったということだ。
あの頃の佐伯先輩はボロボロだった。仕事にも身が入らず、心身共に疲弊していた。それはもう見ていられないほどに。
「俺、あなたが好きです」
そう告げ、弱った先輩の心に入り込むのは簡単だった。
俺は先輩を抱いた。何度も何度も身体を繋げた。望み続けたものがやっと手に入ったと思った。
だが先輩は泣いていた。明かりの消えた寝室でも、快感に顔を歪めていても、泣いているのはすぐに分かった。
心だけは望んでも手に入らない。俺はいつまでも金城さんの代わりだった。
それでもよかった。今までは……。