夢の続き
「あんたのところだって、そんなに景色は変わらないじゃない」


立ち話もせずにそのまま歩いていく。

特に行き先を話しあったわけではないが、僕は彼女の後ろについていった。

横に並ぶのではなく、後ろについていくことのほうがカップルや夫婦とは思われずに済むという、僕なりの遠慮というか、配慮というか、まあ単なる思い付きなのだけど。

それでも、旦那様がいる彼女には、少しでもそういった誤解を周りからされてほしくないという思いがあるということだけは確かだ。


「それでも、僕は電車で二十分も掛からないですよ」


更には彼女の駅は埼玉県で、僕の駅は神奈川県というところを言おうと思ったが、今この場所が東京都ということと、埼玉と神奈川ではどちらが都会でどちらが田舎という区別がつかないので止めた。

僕の言葉に反応したのかどうかは分からないが、彼女は軽くジャンプしてから立ち止まり、こちらを振り向いてきた。


「ところでさ、ご飯は食べた?」


「食べてないから、今向かっているんでしょう」


彼女は照れ笑いを浮かべて、すぐさまもう一度振り向いて歩き出した。

その向かっている場所というのは口にしなくても分かっている。

彼女がどこかで外食をする場合は、一緒に仕事をしていたときは必ずあそこだったから。
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