それは…好きだから。(彩佳side)
「それにしても、樹生いなかったなあ」

 わたしには社内につき合っている彼がいる。

 営業部の笹森樹生(ささもりいつき)。
 社長の甥で、重役候補だと言われている人。

 イケメンで性格だっていいし、営業部でも1、2位を争うほどの成績に加えて、
 将来性も抜群な彼は女子社員の憧れの的。
 周りはライバルだらけ。

 つき合うまでは部署内でも樹生の噂はよく聞いていた。
 わたしにとって彼は雲の上の人。関係ないと思っていたけど。

「彩佳」

 聞きなれた声に突然名前を呼ばれ、振り向くと樹生の姿。

「樹生」

 最近はなかなか会えなかったから、営業部の仕事が入った時は少し期待していたのだけど、
 外回りしていたみたいで姿が見えなかったから、諦めていたのに。

 まさか、こんなところで会えるなんて思わなくて、自然と顔が綻んだ。

 喜びもつかの間、彼は足早に近づいてきて、
 乱暴にわたしの腕を掴んで引っ張っていく。

 樹生の怖い顔。

 わたし何かしたの?

 エレベーター横の階段下までくると、
 強引に身体を壁に押し付けられた。

< 2 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop