それは…好きだから。(彩佳side)
 貪るように口づけた後で樹生が書類を拾ってくれる。

 呼吸が正常に戻ってくると
 夢から醒めるように現実に戻ってしまった。

「どうして? こんなところ誰かに見つかったら」

 書類を手渡してくれる彼を悪者にして責めたわたしに謝りながら、
 名残惜しそうに唇に触れてくる。

「だから、社内でこんなことしないで」

 
 わたしはキツイ口調で咎めて、彼の手を唇から剥がした。

 唇をなぞった少し冷たい指先。今も熱が残る瞳。
 もっと彼を感じて、甘い余韻に浸っていたいけれど……

 ここは会社。
 自宅ではないのだから自粛してもらいたかった。

 彼との社内恋愛は秘密にしていたかったから、
 絶対に言わないでってお願いしていたのに……バラしてしまったのは彼だ。

 つい、うっかりしゃべってしまったと、
 故意ではなかったとたくさん謝ってくれたけど。
 そのせいでわたし達は、社内で周知の仲になってしまった。

 さっきだって、和田課長に樹生のことでからかわれたし。

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