それは…好きだから。(彩佳side)
 えっ?
 ドンッと音がしそうなほど勢いよく壁に両手をついて、
 険しい顔で睨む樹生の強い視線とぶつかった。

 何を怒っているの? 

「おまえだって触っていたよな?」

 樹生の苛立った声。
 いつもは優しくて、穏やかな人なのに。言葉もいつもより乱暴……

「触って? 誰を?」

 身に覚えがない。

「和田課長」

「和田課長? いつ?」

 本当に身に覚えがない。

「さっき。笑いながらあいつの腕を触ってた」

「そうだっけ? ていうか和田課長は上司なんだから、あいつなんて呼び方したらダメでしょう」

 身に覚えのないことで責められても……困る。

「俺の上司じゃないし」

「何、そのへ理屈」

 これじゃ、まるで駄々をこねている子供みたい。
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