それは…好きだから。(彩佳side)
「それは認めるけど、和田課長だけじゃなくて、もしかして他の男にも、みだりに触ったりしてないよな?」

「他の男って……それ、飛躍しすぎ、そんなことするわけないじゃない」

「ホントだな?」

 ありもしないことで、ここまで疑われなくっちゃいけないの?

「ホントよ。わたしには樹生がいるんだし……」

 そこまで言ってわたしは黙り込んだ。これって、まさか……まさかだけど。

「わたしの勘違いだったら、ものすごく恥ずかしいんだけど」

 反応を窺うようにそっと樹生を見てみると、彼は思ったより真面目な顔をしていた。

「うん。言って」

 促されて、恐る恐る聞いてみる。

「笑わないでね。あのね、もしかして嫉妬してくれているのかなって、思って。あっ、ごめん。やっぱり……違うよね。今の忘れて」

 自分で言ってものすごく恥ずかしくなった。
 言わなきゃよかった。

 樹生の顔が見られなくて、腕に抱えていた書類で顔を隠した。

 勘違いしちゃいけない。
 やきもちを妬いてもらえるほど、わたしに魅力があるはずはない。

 何を思ったのか樹生は、わたしから書類を取り上げると床に落としてしまった。

「あっ」

 さっきよりも散乱した書類を拾おうとしゃがみ込もうとしたのに
 わたしを抱きしめて来て……今日の樹生はホントにヘン。

「樹生。ここ会社だから」

 言っても、彼はわたしを離そうとしないどころか、きつく抱きしめてくる。

 誰かに見られたら……わたしは焦って身を捩って、
 何とか腕から逃れようともがいてみたけれど、彼はびくともしない。

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