ミステリアス
それでもデキる女を装いながら颯爽と駅の改札をくぐり、BARシャーロックへ。
待ち合わせの二十分前に着いてしまいました。
幼なじみに会うというトリックのない心の高揚感と、それとは対照的な脳の不安感に急かされてしまったのかもしれません。
とりあえず、カウンター席に座って
《もう着いてますので》
と、メールを送信しました。
すると、背後から声がしたのです。
「俺も着いてる」
振り返るとそこにはスーツ姿の耕助がいました。
そういえば、父が「耕助くん、大手広告代理店に就職したらしいぞ」と言っていた事がありました。
長い睫に茶系の瞳。クールな眼差し。高くて先の丸い鼻と口角の上がった唇。
なにも変わってないのに、スーツ姿が大人の男という魅力を醸し出していて。
背中がゾクっとしました。
「耕助っ、随分早く着いてたんだね」
「ああ。久しぶりだな」
「うん」
真夏の花火のように打ち上がっていく自分の鼓動が耕助に聞こえてしまいそうで。
「向こう、夜景がきれいだね」
私は視線を逸らし、二人で窓際の席へ移動しました。
「結婚は?」
「えっ!! してないよ」
唐突な質問に焦ってしまい、恥ずかしくなるほど上擦っている声。
「へえ、あの大学の時の小林とかいうヤツと結婚してるもんだと思ってた」
「してない、してない。あれは、なんとなく約三年の恋だったから」
「なんとなく約三年の恋ってなんだよ。それより、あの他人行儀なメールはなに?」
「だって六年ぶりだし。色々躊躇したっていうか」
「まあいいけど……」
耕助は不機嫌そうに言うと、ギムレットを口にしました。
私はピーチフィズ。
以前ここへ来た時、女性の編集者さんが飲んでいたカクテルです。